◎ルータの子どもたち

寒くても穏やかな天気だった14日、午後も花植え仕事に励みました。

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一番手薄になっている駐車場脇の花壇…というか草茫々になっていたスペースにもカミッレやチコリーも植え終わることが出来てほっと一息。ふと周囲を見ると…


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こぼれ種から育ったルータの赤ちゃんたちが、あちこちにたくさん。
「あら、まぁ〜」と嬉しくなってかき集めて来ました。(何故か殆どがコンクリートの隙間から芽吹いていて、そのままでは健全に育たないので…)


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花壇の隅に植え替えて…。

ルータは、他の多くのハーブと同様、南ヨーロッパや中近東の地中海沿岸地方の原産。冬は温暖湿潤、夏は強く乾燥する地域の植物で、冬は乾燥、夏は高温多湿の日本の太平洋岸とは反対の気候の植物です。多くのハーブはこの日本の気候に合わずに、特に夏越しが苦手なのですが、ルータは全然平気で(ちょっと夏は弱りますが…)、こうしてこぼれ種で子どもたちも生んでくれます。

◎ルータの物語
「ルータ ruta」というのは、この植物のイタリア語の呼び名です。
私がこう呼ぶのは、こんなお話から…(だいぶ長くなりますが、引用させていただきます)
 まだ第二次世界大戦の影響が色濃く残るイタリア、ミラノ。 貧しい鉄道員の息子に嫁いだひとりの日本人女性が語る物語。姑の鉄道員官舎を訪れた場面。

(引用…ここから)
しゅうとめは、ときたま、彼女の菜園からいろいろと「収穫」してきては、私たちを愉しませてくれた。たいていは花だったが、ローズマリーやセイジのような香草のこともあった(元来、南イタリアの人たちが使うものだったバジリコやオレガノを、彼女は植えなかった)。
あるとき、ちょっと、といってキッチンを出ていくと、しばらくたってから、あっ、くさい、くさい、とまるでオペラの相の手みたいにくりかえしながら、ぷちぷちした小さな丸い葉がついた、茎がうっすらと粉をふいたような緑の葉を新聞紙にくるんで入ってきた。なあに、それはいったい。なにげなく、指で丸い葉をつぶすと、大声をあげたくなるほどの強い匂いがして、私は顔をゆがめた。あら、知らないの。しゅとめは笑った。ふつうの草みたいだけど、これで訳にたつのよ。ルータっていって。

(中略)
くさい、くさいって、おかあさん、そんならこんな草、採ってこなければいいのに。なにか役に立つの、こんなもの。

こんなものって。しゅうとめは口をとがらせた。グラッパに入れると、香りがついておいしいのよ。二、三日、陰干しにしてから、グラッパの瓶に枝を一本、沈めておくと、臭みがうまい具合にまるくなるのよ。むかしは、虫下しに使ったものだけれど、いまはこれぐらいの役にしかたたない。いいながら彼女は、ひとつに束ねて紐をかけると、草をバスルームに持っていった。そこには、歯ぐきが腫れたときに煎じてうがいするゲンノショウコに似たマルヴァ(引用者注Malva=マロー)や、寝つかれないときにハーブティーをつくるカモミッラ(引用者注 Camomilla=カモミール)など、すでに幾種類かの薬草が天井に吊るしてあった。

冬が来たある日、しゅうとめの家に行くと、夕食のあと彼女は、グラッパの瓶を戸棚からとりだした。夫の好物だったから、私たちは、おかあさん、と歓声をあげた。でも、あのとき彼女がルータを入れたのを私はすっかり忘れていた。瓶の半分ほどの高さまで、鼻の曲がりそうだったあの草の、いまは光沢を失った小枝が沈められているのを見て、私はがっかりした。自分がルータを嫌うのは、単純に自分が外国人で慣れていないからなのだろうか。わけもなくそんな疑問があたまのなかを走り抜けた。いや、私は考えた。もしかすると、瓶を電灯に透かしてうれしそうに笑っている夫を見ていて、彼と私のあいだにあのいやなにおいの草が割り込んできたような気持ちがしたのではなかったか。それからも、しゅうとめに対して素直になれなかったときなど、ふと私は彼女からルータのにおいを嗅いだ気がすることがあった。

須賀敦子 『トリエステの坂道』(河出書房新社 全集版より)


イタリアのハーブについての確認参照→『ラファエッロの丘から〜』ハーブの魔女に会いに行く🌿~ネローネ山のロレッタ